寮と大学と自治
自治とは何か
みなさんこんにちは. みなさんがこれから, 入られるであろうと期待する熊野寮は「自治寮」という, 寮生で「自治」を行っている寮です. 現在でもこのような「自治」を行っている学生寮は, 全国的に見てもほとんどありません. ここでは, 熊野寮の「自治」について, 紹介したいと思います.
「自治」とは何なのでしょうか. 辞書には「自分たちのことを自ら処理すること. 特に, 地方公共団体や大学がその範囲での行政・事務を自主的に行うこと(岩波国語辞典) 」と書いてあります. すこし幅が広すぎてよくわかりませんね.
ですが, 熊野寮の自治とは非常に単純です. それは「熊野寮のことについては熊野寮生が取り決め運営する」という, ただそれだけのことです.「そんなことわざわざ確認しなくてもあたりまえ」という人がいるかもしれません. しかしながら, 熊野寮が誇る「自治」のすばらしさは, それをとことん追求していることにあります.
たとえば, 現在政府は学生に学生寮の入退寮権(どのような学生を寮に入れるか判断する権利) を認めていません. 従って, 全国のほとんどの大学では学生寮には大学が許可した学生のみが入寮するようになっています. では, どうして熊野寮では入退寮権を学生組織である熊野寮自治会が持っているのでしょうか. それは, 熊野寮生が「自分たちのことは自分たちで決める」と国や大学の決定に対し闘って, 勝ち取ったからです.
また, もともと熊野寮は日本人男子学部生のみが住める寮でした. しかし現在熊野寮には, 性別も年齢も国籍も問わず, さまざまな寮生がいます. これも, 熊野寮生が「自分たちのことは自分たちで決める」「寮は全京大生に広く開かれるべきだ」といって, 1973年に取り決めたことです.
このように, あげればきりはないのですが, 熊野寮の「自治」のすばらしさは, 「熊野寮のことについては熊野寮生が取り決め, 運営する」という自治の原則を徹底して貫いていることにあります.
大学自治という基本精神
大学自治という言葉をご存知でしょうか. 歴史を振り返ったとき, 戦時に大学は戦争協力をしたり, 国から戦争協力を強要されたりしました. その反省から, 戦後の大学人が不当な支配に屈しない教育の精神や, その証としての, 国に対する大学自治を打ち立てました. 戦後の寮自治も基本精神は同じところから始まります. 戦争協力のような国の不当な圧力に屈しないために, 学問の自由・機会均等を守るために, 寮の自治は行われてきました. 現在でも, 熊野寮が獲得している多くの権利(上記のような入退寮権の獲得や食堂の防衛など) は, 寮生が脈々と自治を行い, 経済的に苦しい学生のための熊野寮を守ってきたからこそ, こうしてあるのです.
自治のすばらしさ
さて, それでは自治ということについて, もう少し深く考えていきましょう. 「自治」のすばらしさとはどういう点にあるのでしょうか. それは第一に, 最も熊野寮のことを考えた運営ができるということです. 熊野寮のことは寮生が一番よく知っているのは言うまでもありません. その, 寮生が議論して導き出された運営は最も熊野寮生のことを考えた運営です.
もちろんそのためには, 寮生一人一人が寮のことに積極的に関わっていかなければ成り立ちません. 毎週行われる専門部会, それぞれの時期に活動する専門委員会, そして, 月に二回のブロック会議と年に二回の寮生大会. これらの寮の諸会議を通して, 熊野寮では寮生同士が意見を活発に交わしています. 従って, これらの会議は, 自治の根幹をなす部分であり, 寮生全員の出席が義務付けられています. 「これだけ会議があると, 大変だ」という声が聞こえてきそうですが, 大したことはありません. なぜなら, 他ならぬ自らのことを決める場なのですから.
そして第二に, 自分で自らのことを決定できる喜びです. 本来はあたりまえであるはずのことですが, 今の社会ではそれすらも困難になっているのが現状です. そのような中で, 熊野寮では寮生の寮生のための寮生による運営ができるのは何よりも楽しいことです.
第三は人と人とのつながりです. 例えば寮内で行われる季節ごとのコンパや, 談話室などでの夜を徹しての議論や麻雀に飲み会, 回生・性別・国籍を問わないその人間関係は, 自治を行っている熊野寮だからこそです.
自分がやりたいことを周りの人に呼びかけて, 企画として実行する. 寮生の想像力に上限がない以上, 自治をしている限り熊野寮の可能性・創造性・発展性は無限大です.
ところで, 「自分たちのことを自分たちで決める」というと, 個人主義的思考に勘違いされそうですが, そうではありません. 熊野寮は寮生みんなで運営しているものです. そこでは, 最低限のルールというものがあります. それは, 相手のことを考えるということです. 例えば, 熊野寮には当番制の仕事があります. この仕事を誰かがサボったらどうなるでしょう. その分の仕事は別の寮生に負担となります. そのようなことは絶対に認められません.
寮自治の根源
最後に, 寮自治の大事な基本精神を.
自治とは寮生みんなで行うものです. ですので, どのような立場・性別・国籍の人であろうとも, どれだけ利害が対立してようとも, あくまで対等な立場で話し合いを行うことが絶対不可欠です. こうした対等な話し合いで形成された信頼関係がないと, 安心して共同生活なんておくれません. このような信頼関係を築くためにも, 各寮生がお互いのことをよく知り, お互いのことを考え, 立場が異なる人とも対等に接して議論を重ねる努力をしなければいけません. これを, 徹底討論の原則といいます.
また, 熊野寮では何かトラブルが起きたときも, 押し付けや刑罰でよしとするというのではなく, 当事者が納得できるように, 最大限努力します. 寮生一人一人が, 本当に信頼できる熊野寮を目指しているからです. このような, 信頼関係が熊野寮自治の根源なのです.
長くなりましたが, これで自治の紹介は終わりです. みなさん納得していただけたでしょうか. まだ「? 」というところもあるかもしれませんが, それは入寮されてからということにしておきます. 寮はみんなが作っていくもの. たくさんの信頼できる仲間に囲まれた, 心躍るような寮生活を, 熊野寮でともに過ごそうではないですか. みなさんの入寮を心よりお待ちしております.
大学当局との確約・団体交渉
熊野寮自治会が大学当局と結んでいる確約と団体交渉について説明します.
言葉の解説:大学当局
「京都大学」には学生個人や多くの学部・寮自治会などの組織も含まれます. それら学生側と区別して大学運営の中枢である事務本部や各担当部署を指す言葉です. 「我々大学当局としては...」というように, 京都大学では職員や教員にも一般的に使われている言葉です.
確約
確約とは熊野寮自治会と京都大学当局との間に取り交わされた約束です. 実際に居住している当事者である寮生の意見を無視して当局が一方的な決定を下すことを防ぎ, 当局と寮自治会が対等に協議できるようにするために, 当局側の権力行使に制限をかけるものです
「対等」な話し合い
前項で「当局と寮自治会が対等に協議できるように」と述べましたが, 法的に管理権を有する当局と学生の間には大きな権力差があるということが前提になっています. だからこそ, その力の差を可能な限り埋め合わせ, 可能な限り対等な話し合いによって学生のよりよい福利厚生を実現しようとしているのです.
例えば, 寮生は交渉で発言する際にも当局に対して名乗ることはありません. 所属を特定されて個人単位で弾圧される危険性があるからです. 京大では近年もアカデミックハラスメントが起きています. 自分の「家」について当局と意見が違っただけで, 学業面で不当な扱いを受けることがあってはなりません. もちろん, そもそも組織間の交渉なので, 寮自治会の立場を述べるのであれば, 個人が名乗る必要がないということでもあります.
確約の引き継ぎ
確約書は厚生担当副学長の署名によって結ばれており, 形式的には副学長個人の寮に対する約束となっています. しかし, 「熊野寮自治会と京都大学の基本確約」とあるように, 本来的に確約は組織間の約束です. 例えば担当者(任期2年の副学長)が交代したからといって, 大学と自治会の約束がいちいち白紙に戻っては困ります. その為に, 副学長が交代しても引継ぎが自動的に, 確実になされるよう, 「次期以降の学生担当理事, 厚生補導担当副学長に引継ぐ. 」という条文が定められています.
ちなみに現在は, 当局の責任者として川添信介副学長が寮自治会と確約を結んでいます.
団体交渉
当事者(寮生は勿論, 今後入寮しうる京大生, その他関係者など誰でも) がすべて自由に参加できる, 公開の交渉形態です. 学内の大教室や寮食堂などで開かれてきました.
例えば対照的に, 少人数の交渉形態, つまり寮自治会の代表者数名だけが参加できる協議の場というのはどうでしょうか. 経済的に苦しくてアルバイトで忙しいため自治会の交渉事に中心的に参加できていない者や, 入寮したばかりで確約などの詳しい知識が無かったりする者など, 「自分の家のことが協議される場に参加したい」という思いは皆同じです. すべての当事者(特に居住している寮生) には協議・意思決定の場に参加する権利があると考え, この形態で交渉することが条文でも定められています. 団体交渉という形態を拒否すること自体も確約違反なのです.
熊野寮自治会と京都大学の基本確約
熊野寮自治会と京都大学は, 2004年3月31日に結ばれた, 両者の確約書に則り, 以下の内容に合意する. 両者は熊野寮が京都大学学生全体に開かれたものであることを確認し, その一層の充実のため誠実にこの確約内容を履行するものとする. 両者は学生の居住する熊野寮の運営に関しては, 当事者であり主体的にその責任を果たす学生の自治によることが最良であることを確認し, この認識を基礎にこの確約を結ぶものである. 本確約は文書としては二通作成し, 両者が一部ずつ所持するものとする.
京都大学は福利厚生施設としての熊野寮を設置し, その施設を維持・管理する. 京都大学は熊野寮の一層の充実に努めるものとする.
京都大学は, 熊野寮の日常的運営が熊野寮自治会によることを確認し, 熊野寮自治会はその運営を誠実に行うよう努力する.
京都大学は, 熊野寮の改廃や新寮および新規寮建設, 熊野寮に関わる人員配置, またその他熊野寮に重大な影響を与え得る事案に関しては, 公開の場で熊野寮自治会と団体交渉を行い, 合意の上決定する. 加えて, 熊野寮自治会と京都大学は, 一方が提示した議題に真摯に取り組むものとする.
熊野寮自治会または京都大学は, 両者の協議の場において, 何らかの条件を付そうとする場合には, 相手側の同意を得るものとする.
熊野寮自治会または京都大学は, 熊野寮に重大な影響を与えうる事案について何らかの計画を構想した段階で, 相手方にその内容を報告するものとする.
京都大学副学長 熊野寮自治会
確約
上記の「熊野寮自治会と京都大学の基本確約」ならびに2010年12月17日の赤松副学長(当時) による「確約書」を基礎にして, 以下の内容を遵守する.
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熊野寮食堂の機能の維持・向上について
過去に熊野寮食堂の食堂労働者を削減した事実を認める.
現在の熊野寮食堂の食堂労働者の置かれている労働環境が劣悪であることを認め, その改善に努める.
熊野寮食堂において, 食中毒が発生したり, 感染症が持ち込まれたりしても, これを理由とした食堂廃止は行わない. また保健所の指摘を理由とした食堂廃止も行わない.
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京都大学熊野寮食堂運営会( 以下, 「食堂運営会」とする) について
2013年6月21日に改正された「京都大学熊野寮食堂運営会会則」ならびに2014年6月20日に改正された「京都大学熊野寮食堂運営会就業規則」を遵守する.
食堂運営会雇用調理員に対する一定の雇用責任を認め, 労働災害発生時の補償責任を負う.
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寮内労働者について
寮内労働者の雇用形態について本来ならば全員大学雇いが望ましいことを認め, その労働環境・労働条件に関しては改善に努める.
恒常的業務に従事する寮内労働者が退職となった場合には, 後任を補充する. この後任補充の際, 雇用形態や労働条件などの, 労働に関わるすべての条件を, 前任者と同等もしくはそれ以上で確保する.
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寮の生活環境の向上について
寮自治会から生活環境に関する要求があった場合には, その要求された箇所について調査を行い, そのための工事や改修について検討する. また, その検討結果を速やかに寮自治会に報告する.
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熊野寮に対する家宅捜索などについて
熊野寮に対する家宅捜索の立会いの方法について, 熊野寮自治会からの要求があった場合には, 熊野寮自治会と協議する.
熊野寮に対する家宅捜索において, 寮自治会への令状不提示, 過剰警備( 玄関前等の占拠) , 抗議する寮生や掲示物のビデオ・写真撮影など自治や人権を侵害する行為が行われた場合には, その場で抗議する.
熊野寮に対する家宅捜索が不当であるかどうかを検討し, 寮自治会に対して, その検討内容を明らかにする. 不当であると判断した場合には, 速やかに抗議する.
熊野寮自治会から「外部団体により不当な扱いを受けたので抗議してほしい」という要求があった場合, 大学職員がその不当な扱いを現認したか否かにかかわらず, 抗議の是非を検討する. また熊野寮自治会からの要求があった場合には, その不当な扱いについて, 熊野寮自治会と協議する.
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桂キャンパスの利用について
熊野寮生をはじめとする学生の桂キャンパスへの通学において, 不便とならないように努める.
桂キャンパス周辺に新規寮を建設することを検討する.
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寮自治会と国立大学法人京都大学の関係性について
中期計画, 年度計画を文部科学省に提出する前に, 寮に対してどのような影響があるのかを寮自治会に対して提示・説明し, 寮自治会からの要求があった場合には, 内容を変更することが可能な協議の場を持つ.
国立大学法人運営費交付金など大学法人の収入減少を理由とする寮関係予算の削減を行う場合, その重大性などに関する寮自治会との真摯な議論を経て, 寮自治会と合意するものとする.
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団交―確約体制ならびに確約の引継ぎについて
学生担当理事, 厚生補導担当副学長は, 熊野寮自治会との間において, 団交―確約体制を維持する.
学生担当理事, 厚生補導担当副学長は, 「熊野寮自治会と京都大学の基本確約」ならびに本確約を, 次期以降の学生担当理事, 厚生補導担当副学長に引継ぐ.
厨房労働者の雇用形態と人件費負担について
現在, 熊野寮食堂の厨房に勤務する5名の栄養士・調理員のうち, 調理員2名については大学雇用ではなく, 寮生が人件費と労働保険料を負担している. 我々はこの現状の問題性を見失ってはならない.
「受益者負担の原則」とそれを否定する熊野寮の立場
「受益者負担の原則」とは「利益を得ている人」が金を払えという考え方である. これは60年代から国が押し出してきたものである. 教育について言えば, 「教育を受ければ将来良い職について金持ちになるから, 将来の自分への投資として金を払え」というような論法となる.
それに対して, 社会の維持発展のために教育は必要であるという事実から, 社会に必要なものは社会全体で保障すべきであるという考え方がある. 社会全体が利益を得ているから社会全体で金を賄うというものである. つまり「受益者負担の原則」を否定する考え方である. 熊野寮自治会はこの立場で運動し, 国・当局との攻防を繰り広げて今にいたる.
こう考えれば, 調理員の人件費についても本来公費で賄われるべきであり, つまり京都大学が調理員の雇用を保障すべきである.
歴史を見れば, 寮自治会が運動した結果, 1969年7月以降, 調理員全員が京都大学に公務員として雇用されていた. 大学当局すらも, 国策である「受益者負担の原則」に反対する立場に立たせたのである.
食堂運営会とは
食堂運営会(正式名称: 京都大学熊野寮食堂運営会) とは, 熊野寮食堂の厨房に勤務する5名の栄養士・調理員のうち, 寮生が人件費と労働保険料を負担している調理員2名を雇用し, その労働条件を維持・改善するためにつくられた組織である. 会長には京都大学副学長が着任し, 全寮生が会員ということになっている.
60年代の時点では, 熊野寮食堂の厨房調理員は全員公務員(つまり大学が雇用主) だったが, 1979年12月, 大学側が国が推し進める受益者負担の原則や新々寮四条件1, 公務員削減政策を理由に, 調理員をそれまでと同じ条件では(つまり公務員としては)雇わないことを一方的に宣言した. それ以降4度の臨時職員の後任不補充が行われ, 抗議の甲斐もなく, 結果として寮生側は自分たちで人件費を払ってパート(時間雇用) 調理員2名を雇うことになったのである.
さらに, 大学との間で誰がそのパート調理員の労働関係上の雇用主となるべきかをめぐって見解が合わず2, 交渉が長期化した. その結果, 雇用主が不明確という理由で寮生負担パート調理員は長いこと労働保険にも正式に加入することができなかった. 労働保険(雇用保険・労災保険) への加入は全ての労働者に与えられた権利であるが, 寮生負担パート調理員はその労働者にとっての基本的な権利すら許されないまま放置されていたのである.
そこでこの人権侵害的な状況を改善するため, 寮生側から大学に対し, 「食堂運営会」を設立し, その組織を寮生負担パート調理員の雇用主とすることを提案したのである. 取り決めとしては, 「人件費, 保険料は今までどおり寮生が払うこと」「大学側は労災時の補償責任を負うこと. また, 大学副学長は会長に就任すること」という形で, 大学と寮生が運営会雇用調理員の雇用責任を折半して負う形であった. この提案は認められ, 2005年4月から食堂運営会は発足し, 食堂運営会雇用調理員(元寮生負担パート) は労働保険に加入することができた. 確約によると, 寮生は食堂運営会雇用調理員(旧寮生負担パート) 2名の人件費・保険料を負担し, 大学側は労働災害発生時の補償責任を負うことになっている.
食堂運営会の今後の課題は, 食堂運営会雇用調理員さんの現在の労働条件を維持し, 働きやすい労働環境を守っていくことである. そのため, 日頃の調理員さんとのコミュニケーションはもちろん, 年2回開かれる食堂運営会総会や毎年の会長指名(会長の任期は1年です) , 副学長の代替わり毎に行なう団交・確約を確実にこなさなければならない. これよりもう一段階進んだ課題としては, 調理員さんに対する人件費・保険料支払いも含む完全な雇用責任を大学に認めさせ, 大学を雇用主にすること(つまり労働条件の「正常化」) がある.
低価で生活できる学寮の意義を放棄し, 寮生の共同空間を破壊することで, 寮生間の自由なコミュニケーションを否定し, 個々人を分断管理(集団として行動できないように) するものであると同時に, 大学, 社会に対して批判的な者を恣意的に退寮させるなど, 経済的弱者を切り捨てた上での徹底管理を狙ったものであるとして全国の自治寮は長年これに抗議してきました.
学寮不要の文部省方針
1971年の中央教育審議会答申で, 文部省は学寮を「紛争の根源地」と断定, その教育的意義を否定した. これに基づいて多くの学寮で, 水光熱費の徴収や入退寮権を大学当局が把握していった. 大阪大学, 岡山大学などでは, 大学当局が反対する寮生を機動隊の力を借りて抑圧し, 自治寮の廃寮化を進めていった.
自治寮は, かつては全国にあったが, 次々と廃寮化, 管理化されている.
東大駒場寮2001年廃寮化
東北大有朋寮2003年管理寮化
富山大新樹寮2011年管理寮化
東京芸大石神井寮2014年廃寮化
など
ガサにまつわる大学と寮自治会の立場
熊野寮には昔からよくガサ(家宅捜索)が入ります. このガサについて説明します.
捜索の原因
捜索の原因は中核派であるが, その捜索自体が不当であり, 熊野寮が中核派を追い出すことはない.3
川添信介副学長は2017年2月14日発行の「Campus Life News Vol.12」において, 「熊野寮の捜索」という文章を発表しました. この文章では, 捜索が行われる原因は中核派が住んでいることであり, 追い出すべきであると述べているように見えます. しかし, 熊野寮自治会が中核派を追い出すことはありませんし, 京大の学籍を持ってさえいれば, 中核派だからという理由で入寮を拒むことは決してありません.
なぜなら, 家宅捜索が行われる目的が事件の捜査だとは思えないからです. 当時の捜索は「ある中核派の学生が裁判所で退廷命令を下され, 両脇を抱えられながら法廷警備員の右膝を蹴った」という公務執行妨害事件についての捜索でしたが, 事件から10ヶ月以上も経ったあとにその学生が逮捕され, 熊野寮への捜索が行われました.
「蹴った」という行為の証拠が10か月後の熊野寮から出てくるとは到底思えません. また, 家宅捜索では大量の機動隊員が動員されました. 過去に寮生が捜索を妨害したことはありませんし, 必要のない捜索を, 必要のない機動隊の動員とともに行っている理由は, 寮生や近隣住民を怖がらせたり威圧したりするためだというのが寮自治会の見解です.
大学の教員にも, 真理を探究する一研究者として, 法的正当性とは必ずしも合致しない「正しさ」について自ら考え行動してほしいものです.
寮生とともに大学当局も抗議する
先述の「確約書」項目Eにおいて大学職員も「その場で抗議する」ことになっています. 責任者間だけではなく, 各職員が各捜査員に対して, 現場で即座に抗議する, ということが当局と自治会の間で確認されています.
過去には, 2009年5月18日付で, 大学職員が立会を行なうために十分な機会と時間を与えずに警察官が熊野寮の敷地及び建物に入ったこと, 玄関を必要もないのに過剰な人数の機動隊員で占拠し, 寮関係者の出入りを規制したことに抗議する文章を当時の副学長が警視庁警視総監と京都府警・大阪府警に申し入れています.
しかし, 「玄関の過剰警備に抗議して下さい」という現場での寮生の要請に対して「後日責任者間で行うから, 今はしない」というような返答をする事務職員も確認されており, これは確約違反となります.
もちろん, 過剰警備だけでなく無関係な物件の押収・撮影など多くの不当行為に対し, 学生の生活を守る立場として真摯に抗議する職員・教員も少なくないです. しかし, 個人単位で確約の内容を無視する者がいることも事実であり, そういった事実が確認される度, 当局がその点を改善するよう, 自治会から要求をしています.
ガサについて抗議すべき点
ガサの不当な点は大きく二つ, 「捜索自体の不当性」と「現場での不当行為」に分けられます. 以下の観点に基づいて寮生は抗議しています.
捜索自体の不当性について
わかりやすい例を挙げると, 2013年にあった事案で, 「令状の捜索目的が熊野寮と無関係である」というようなことです. 寮生ではないし, 過去に住んでいたこともなければ, 立ち入ったこともない人物の被疑事件で令状が出されており, 自治会から抗議の声明を出していました.
現場での不当行為について
過剰警備
捜索場所が1部屋のみで, 捜査員10名で足るような状況であっても, 50〜150名の機動隊を動員し, 玄関および捜索場所に至るまでの階段と廊下を不必要に占拠されるのが毎度のことです. 明らかに過剰な警備であり, 寮生の生活を不当に破壊するものとして抗議しています.
令状の不提示
令状を示すことなく押し入ることがあります. 本来は敷地に入る前に提示すべきものです. 2017年1月のガサで久しぶりに正門前での提示がありましたが, 2013年からそれまで正門前で提示されたことはありませんでした.
警察手帳不提示
「提示の必要はない」とはっきり言い放つ捜査員が度々現れますが, 人の住居を占拠しておきながら, 自身が警察官であることを示さなくてもよい, というのは一体どういうことなのでしょうか.
「警察手帳規則第5条(証票及び記章の呈示) : 職務の執行に当たり, 警察官, 皇宮護衛官又は交通巡視員であることを示す必要があるときは, 証票及び記章を呈示しなければならない」に違反していると考えられます.
無関係な寮生の撮影
捜査員が, 廊下などの過剰警備に抗議する寮生や授業に出ていく寮生を終始撮影することがあります.
警察官は捜査に際し, 捜査に関係の無いものを押収・撮影してはいけないとされています. よって, 公安警察の行為は肖像権の侵害にあたり, また, 憲法十三条をみても違憲行為であると考えられます. このような事例に関し, 捜査に無関係な第三者の撮影を違憲・違法とする最高裁の判例もあり, 言い逃れは不可能です.